国土交通政策研究所が2025年7月に発表した報告書で、日本のコンパクト・プラス・ネットワーク実現に向けて、欧米豪15カ国における交通計画と都市計画の連携に関する法制度や先進事例を調査し、持続可能な地域づくり戦略の実現に資する地域公共交通政策のあり方を分析したものです。
主要なポイント
調査の背景と目的
- 日本では人口減少による地域公共交通サービスの需要減少、経営悪化、担い手不足により公共交通の維持確保が困難
- 地方都市がポストコロナの柔軟な働き方に対応する大都市からの移住の受け皿となるためにもコンパクト・プラス・ネットワーク化が必要
- 欧州では持続可能な都市モビリティ計画(SUMP)等を中核とした地域公共交通の活性化・再生の取組が盛ん
- 本調査では北米、オセアニア、欧州の先進事例から日本の政策立案に役立つ知見を得ることを目的
調査対象国と内容
- 2カ年にわたり欧米豪15カ国(フランス、スイス、イギリス、ドイツ、オーストラリア、デンマーク、フィンランド、ルクセンブルク、オランダ、スウェーデン、アメリカ、イタリア、ベルギー、カナダ、オーストラリア)を調査
- 最終報告書では特にアメリカ、イタリア、ベルギー、カナダ、オーストラリアの5カ国に焦点
- アメリカではシアトル、ポートランド、オースティン、ダラスの4都市圏の事例を詳細調査
- イタリアではボローニャ、フィレンツェ、ミラノの3都市の事例を詳細調査
アメリカの特徴的な取組
- 連邦レベルでの土地利用・都市計画法は存在しないが、ワシントン州・オレゴン州では州法により交通計画と都市計画の連携を規定
- 都市圏計画機構(MPO)が州政府の定める継続的かつ包括的な都市計画プロセスを遵守することで連携を実現
- 公共交通指向型都市開発(TOD)に公平性(Equity)の概念を加えたETODを推進
- 複合利用(Mixed Use)に代表される多様性を意識したまちづくりを展開
- シアトルでは2016年から2046年までの長期計画で公共交通網整備に1,482億ドルを投資
イタリアの特徴的な取組
- 交通計画と都市計画の連携において体系的な法制度を保有
- 大都市圏が策定する持続可能な都市交通計画(PUMS)の要素を各市町村の交通計画・都市計画に反映
- 車両進入制限、ロードプライシング、自転車利用促進、エリア内道路の速度制限(時速30km)等の政策を組み合わせて実施
- 自家用車による移動を公共交通、自転車、徒歩の移動にシフトさせることに成功
- ボローニャではトラム路線新設、自転車利用促進、中心市街地での自動車侵入制限等を実施
日本への含意
- 調査対象国の多くが国または自治体の法制度により交通計画と都市計画を連携させている
- その上でライトレール・トラムの新設、マルチモーダルシフトの推進等の地域公共交通政策を実施
- 日本では地域公共交通計画と立地適正化計画の連携が重要だが、多くの自治体で連携が不十分
- 計画策定プロセスにおける連携と計画内容における連携の両方を進めることが重要
- 交通を地域で最大限有効活用したまちづくりを進めていくことが必要
記事は、欧米豪の先進事例調査を通じて、交通計画と都市計画の連携による持続可能な地域づくり戦略の実現に向けた具体的な施策と法制度の枠組みを明らかにし、日本の地域公共交通政策の策定に寄与する基礎資料を提供しています。