厚生労働省の「労災保険制度の在り方に関する研究会」が取りまとめた中間報告書で、変化する労働環境と新たなリスクに対応した労災保険制度の改革方向性について包括的な検討を行った重要な政策文書です。本研究会は、学識経験者、労使代表、医療関係者等から構成され、2024年4月から2025年6月まで計12回の会合を開催し、制度の現状分析と改革案を検討しました。
現行制度の課題分析では、労働災害の態様が従来の「事故型」から「疾病型」へとシフトしており、精神障害、脳・心臓疾患、職業性疾病の労災認定件数が過去10年間で約40%増加しています。特に、テレワークの普及、働き方の多様化、高齢労働者の増加により、従来の制度枠組みでは対応困難な事案が増加しています。また、フリーランス・ギグワーカー等の非雇用型就労者の増加(推計約470万人)により、労災保険の適用範囲の見直しが急務となっています。
精神障害の労災認定については、認定基準の明確化と迅速化が重要課題として浮上しています。現在の認定期間は平均約8.7か月と長期化しており、被災労働者の経済的負担が深刻化しています。また、パワーハラスメント、過重労働、職場の人間関係等の心理的負荷要因の評価方法について、より客観的で予見可能性の高い基準の確立が求められています。
テレワーク関連の課題では、自宅等での就労中の災害について、業務起因性の判断が困難なケースが増加しています。通勤災害についても、直行直帰の増加により従来の「通勤経路」概念の見直しが必要となっています。また、VDT作業による健康障害、長時間のオンライン会議による精神的負荷等、新たな健康リスクへの対応も課題となっています。
フリーランス等への適用拡大については、「労働者」概念の拡張または特別加入制度の拡充の二つのアプローチが検討されています。特別加入制度については、現在約28万人が加入していますが、対象職種の拡大、加入手続きの簡素化、給付内容の改善等により、より多くの就労者をカバーする制度改革が提言されています。