日本銀行熊本支店が2025年7月1日に公表した熊本県金融経済概観について、台積電(TSMC)進出効果を含む県内経済の力強い回復と今後の展望を分析したものです。
主要なポイント
1. 景気の総合判断と半導体関連投資の波及効果
- 熊本県内の景気は「緩やかに回復している」との判断、物価上昇の影響を受けつつも底堅く推移
- TSMC熊本工場の本格稼働と第2工場建設決定により、半導体関連投資が県経済を大きく牽引
- 設備投資と生産は「高水準で推移」、製造業を中心に投資意欲が極めて旺盛
- 建設業では工場建設・インフラ整備需要により受注残が過去最高水準を更新
2. 県内企業の業況感と先行き見通し
- 6月短観の業況判断DI(全産業)は+20で横ばい、3か月先の予測も+19と高水準を維持
- 製造業は半導体関連・機械産業を中心に好調、非製造業も建設・不動産業が牽引
- 人手不足と原材料価格上昇が収益圧迫要因となるも、価格転嫁の進展により影響は限定的
- 企業の設備投資計画は前年比大幅増、能力増強投資に加えDX・脱炭素投資も活発
3. 個人消費の回復と観光の高水準推移
- 百貨店・スーパー販売額は5月に前年比4%前後の増加、実質ベースでもプラス基調
- 新車登録台数(軽自動車含む)は前年を上回る、半導体関連企業の雇用増による需要拡大
- 家電販売額も前年比増加、所得環境改善を背景に高付加価値商品への需要シフト
- 観光は「高水準で推移」、熊本城・阿蘇山への観光客数が過去最高ペースで推移
- コンビニ・ドラッグストア販売も堅調、人口流入効果により店舗数も増加傾向
4. 雇用・所得環境の大幅改善
- 雇用・所得情勢は「改善している」、有効求人倍率は1.5倍超の高水準が継続
- TSMC関連の直接雇用に加え、関連企業の進出により雇用創出効果が県内全域に波及
- 賃金上昇率は全国平均を上回る、人材確保競争の激化により初任給も大幅上昇
- 正規雇用の増加と所得改善により、若年層の県外流出に歯止めがかかる兆し
5. 物価動向と金融環境
- 5月の消費者物価指数(熊本市、生鮮食品除く総合)は前年比2.8%上昇
- エネルギー価格は落ち着きを取り戻すも、サービス価格の上昇が継続
- 地域金融機関の貸出は大幅増加、工場建設資金と関連企業の運転資金需要が旺盛
- 不動産市場は活況、工業用地・住宅用地ともに需給逼迫により地価上昇が加速
6. リスク要因と今後の課題
- 海外経済の不確実性、特に半導体市況の変動が県経済に与える影響を注視
- インフラ整備の遅れが成長のボトルネックとなる懸念、交通・水資源対策が急務
- 急速な都市化に伴う生活環境の変化への対応、持続可能な地域発展モデルの構築が課題
- サプライチェーンの強靱化と地場企業の技術力向上による産業構造の高度化が必要
記事は、熊本県経済がTSMC進出を契機とした半導体産業集積により日本有数の成長地域へと変貌を遂げつつあり、この好機を持続的な発展につなげるための戦略的な取り組みが重要であると強調しています。