教師による評価と外部機関による標準化試験のどちらが生徒の学業成績を測定する方法として適切かを検証した研究レビューです。
研究の背景と論争点
学術界では、生徒の学業成績を評価する方法として、教師による評価と中央集権的な標準化試験のどちらがより有益かという点について、長年にわたり議論が続いています。経済学分野では、教師による評価に潜在的な偏りが存在することを示すエビデンスが蓄積されつつある一方、教育学者や心理学者は、高いプレッシャーを伴う試験が生徒に与えるストレスの弊害を指摘し、試験結果と教師による評価は概ね一致していると主張しています。この学術的見解の相違は各国の教育政策にも反映され、国によって、さらには同一国内でも多様な評価方法が採用されています。
教師による評価の利点と欠点
教師による評価には明確な利点があります。教師は日常的な接触を通じて生徒の能力をより深く理解でき、最も精緻に設計された標準化試験よりもはるかに広範な教育課程を評価することが可能です。また、定期的な評価の機会により、限られた回数の試験による偶然性を軽減でき、標準化試験では反映されない生徒の有利・不利な状況を黙示的に考慮できます。一方で、同一の課題を評価する場合でも教師による結果には大きなばらつきが見られ、評価基準も教師により大きく異なることが問題となっています。このばらつきにより、教師間や学校間での成績比較が困難となり、特に厳格な教師に評価される生徒が不利になる可能性があります。
教師の評価における偏りのメカニズム
欧米の研究では、教師による評価と外部機関による標準化試験の結果の間に、生徒の特性と相関する系統的な差異が存在することが明らかになっています。文献では、こうした偏りが生じる複数のメカニズムが検証されています。例えば、教師は生徒の授業態度や学習への取り組み姿勢など、純粋な学力以外の要素を評価に反映させることがあります。また、過去の成績上位者や、特定の分野において少数派となる性別の生徒を無意識に優遇する傾向も観察されています。
評価の偏りがもたらす長期的影響
研究によると、教師の評価における偏りは単なる成績の問題にとどまらず、生徒の将来に重大な影響を及ぼす可能性があります。特に数学などの特定科目における偏った評価は、生徒の学業の進捗速度に影響を与え、高校や大学での履修科目の選択を左右し、さらには将来の学位選択や職業選択にまで影響を及ぼすことが示されています。例えば、女子生徒が数学で過小評価される傾向がある場合、その後のSTEM分野への進学意欲が低下する可能性が指摘されています。
政策への示唆と今後の課題
本研究は、2025年6月にIZA World of Laborに掲載されたオリバー・カサニョー=フランシス(University College London)とジリアン・ワイネス(University College London、London School of Economics、IZA)による論文を翻訳したものです。著者らは、政策立案者が非盲検評価における不平等の可能性を認識し、単一の評価方法に依存することの影響を慎重に検討すべきであると提言しています。理想的には、教師による評価と標準化試験の両方の利点を活かし、それぞれの欠点を補完するような評価システムの構築が求められています。
研究は、教育評価における公平性と妥当性の確保という普遍的な課題に対して、実証的なエビデンスに基づく重要な示唆を提供しています。