農林水産省が実施した食料需給動向に関する包括的調査について、国内外の食料需給構造の変化と食料安全保障政策の基礎となる詳細分析結果をまとめた調査報告書です。
食料自給率の動向と構造変化
本調査では、2024年度の食料自給率（カロリーベース）が38%となり、前年度から1ポイント上昇したことが報告されています。この改善要因として、主食用米の消費減少が続く中、パンや麺類の国産小麦使用率が12.3%まで向上し、小麦の国内生産拡大が寄与していることが明らかになっています。
生産額ベースの食料自給率は67%となり、高付加価値農産物の生産拡大により近年上昇傾向を維持しています。特に、野菜・果物類の国産志向の高まりにより、施設園芸作物の生産額が前年比8.2%増加し、自給率向上に貢献しています。
一方、飼料穀物の輸入依存度は依然として85%と高水準にあり、畜産物の実質的な自給率向上には課題が残っている状況が指摘されています。
国際情勢による食料供給への影響分析
ウクライナ情勢の長期化により、小麦・とうもろこし・大豆の国際価格が2022年比で依然として15-25%高い水準で推移しており、食料安全保障上のリスクが継続していることが分析されています。特に、化学肥料原料の輸入価格上昇により、国内農業生産コストが平均18%増加し、農業経営への影響が深刻化しています。
気候変動の影響については、異常気象による作柄不安定化が顕著で、2024年の夏季高温により野菜価格が平年比30%上昇する事態が発生しました。また、海水温上昇により主要魚種の漁獲量が10年前と比較して平均23%減少し、水産物の安定供給にも課題が生じています。
食生活の変化と消費構造の推移
国民の食生活については、高齢化の進展により1人当たりカロリー摂取量が年間1,850kcalと過去最低水準となり、特に穀物摂取量の減少が顕著となっています。一方で、健康志向の高まりにより、野菜・果物の消費は微増傾向にあり、機能性食品への関心も拡大しています。
外食・中食産業の市場規模は2024年に28.5兆円となり、コロナ禍前の水準を回復しました。この中で、食材の国産化比率向上への取り組みが活発化しており、外食チェーンでは国産食材使用比率が2019年の42%から48%まで向上している実態が確認されています。
持続可能な食料システム構築への取り組み
食品ロス削減については、2024年度実績で523万トンとなり、2030年の目標値489万トン達成に向けて順調に進捗しています。特に、AI需要予測システムの導入により小売・外食業界での廃棄率が15%改善された効果が大きく貢献しています。
記事は、人口減少と気候変動の複合的影響下において、食料自給率の向上と持続可能な食料システムの構築が国家的な重要課題であり、生産・流通・消費の各段階での構造改革が急務であると結論づけています。