農畜産業振興機構が報告したEUとウクライナの新たな貿易措置合意について、ウクライナ産農産物のEU市場アクセスに関する取り決めを解説したものです。
2025年7月、EUとウクライナは、ロシアによる侵攻が続く中でのウクライナ産農産物の貿易に関する新たな枠組みで合意しました。この合意は、ウクライナの農業セクターを支援しつつ、EU域内の農業生産者の利益も保護するバランスの取れた内容となっています。
合意の主要な内容として、穀物（小麦、トウモロコシ、大麦）、油糧種子（ひまわり、菜種）、砂糖、鶏肉、鶏卵などの主要農産物について、関税免除の数量枠（タリフレート・クォータ）が設定されました。これらの数量枠は、戦前の貿易水準を基準に、ウクライナの輸出能力とEU市場への影響を考慮して決定されています。特に、穀物については年間500万トン、鶏肉は20万トンの枠が設定され、枠を超える輸入には通常関税が適用されます。
輸送回廊の確保も重要な要素となっています。黒海経由の輸出ルートが制限される中、EU は「連帯レーン」と呼ばれる陸路・河川輸送ルートの整備を支援しており、ポーランド、ルーマニア、スロバキア等の国境施設の改善や、鉄道輸送能力の強化が進められています。これにより、ウクライナ産農産物のEU経由での第三国向け輸出も円滑化されています。
一方で、EU域内、特に東欧諸国の農業生産者からは、安価なウクライナ産農産物の流入による市場価格への影響を懸念する声も上がっています。このため、合意には緊急セーフガード条項が含まれており、特定品目の輸入急増によりEU域内生産者に深刻な影響が生じた場合、一時的な輸入制限措置を発動できる仕組みとなっています。
記事は、地政学的危機下における農産物貿易の継続と、支援と市場保護のバランスという複雑な課題に対するEUの対応を示すとともに、国際的な食料安全保障の観点からも重要な事例となっています。