国土交通省は令和7年7月4日、宮城県栗原市で発生した大型トラックの衝突事故(令和5年5月16日)と浜松市浜北区で発生した大型乗合バスの追突事故(令和4年12月4日)に関する事業用自動車事故調査報告書を公表し、適切な労務管理と緊急停車時の危険防止措置、運転者同士のコミュニケーションの重要性について教訓を示したものです。
主要なポイント
大型トラックの衝突事故(宮城県栗原市)の概要と原因
- 令和5年5月16日20時11分頃、東北自動車道第1車両通行帯で発生
- 大型トラックが故障停車中の大型貸切バスと、その後方で故障対応していた運転者および乗客2名に衝突
- 大型貸切バス運転者と乗客2名が死亡、大型トラック運転者が重傷
- トラック運転者は前方車両追い越し時に右後方の乗用車に注意が集中し過ぎて前方不注視状態に
- 長時間労働による疲労が注意力低下に影響し、運転特性として「判断動作のタイミングがかなり遅い」「注意の配分が十分でない」ことが事故要因に
大型乗合バスの追突事故(浜松市浜北区)の概要と原因
- 令和4年12月4日5時53分頃、新東名高速道路で発生
- 福岡・東京間を2名乗務で運行する大型乗合バスが、乗客17名を乗せて第3車線を走行中、第2車両通行帯の大型トラックに追突
- 大型乗合バス運転者と乗客6名、大型トラック運転者が軽傷
- 運転者は運行途中に腹痛を発症し、計画にないパーキングエリアで約21分間停車したため遅れが発生
- 50km/h速度規制区間を約120km/hで走行し、遅れを取り戻そうとして車線を逸脱し追突
事業者・運行管理者の管理上の問題点
- トラック事業者は改善基準告示に違反する長時間労働を看過し、運転者の疲労を蓄積させる運行計画を実施
- トラック事業者は運転者個々の運転特性に配慮したきめ細かな指導が不足
- バス事業者は高速道路上での緊急停車時の適切な対応について指導監督が不十分
- バス事業者は体調不良時の具体的な対応方法を明確に示さず、服務規程への記載のみに留まっていた
- バス事業者は運行の遅れを取り戻すための速度超過が常態化していたにも関わらず是正していなかった
再発防止策(労務管理とコミュニケーション)
- 改善基準告示を厳守し、運転者の疲労を蓄積させない運行計画の作成を徹底
- 行政から受けた改善指示は、指示を受けた営業所だけでなく全営業所で共有する体制構築
- 日頃のコミュニケーションを密にし、乗務員の健康状態の把握に努める
- 体調不良時に運転者が躊躇することなく対応できるようマニュアル等を準備し、日頃から理解させる
- 2名乗務の運行において、先輩と後輩のような権威勾配が障害とならないよう職場のコミュニケーションスキル向上に取り組む
安全運転指導の具体的改善点
- 前方不注視の危険性を十分理解させ、前方不注視につながる運転を行わないよう指導教育を徹底
- 夜間運行で生じる様々な危険について、危険予測訓練の手法を用いて理解を深めさせる
- 車両故障時や緊急停車時の適切な対応(三角表示板の設置等)に関する指導を徹底
- 日々の運行記録を確認し、速度超過等の違反が繰り返されることのないよう指示
- 突発的な遅れが生じた場合でも、定時運行確保のために安全を犠牲にすることがないよう運転者に適切な指示を行う
記事は、これらの事故調査を通じて、事業用自動車の安全確保には適切な労務管理による運転者の疲労防止、緊急時の適切な対応手順の徹底、そして運転者同士や運転者と管理者間の円滑なコミュニケーション体制の構築が不可欠であることを強調しています。