農林水産省の「畜産振興に関する飼料政策」は、我が国畜産業の競争力強化と持続可能な発展に向けた飼料供給体制の確立と政策的支援について詳述したものです。
国内飼料需給では年間総需要量約2,456万トンのうち、濃厚飼料が約1,789万トン（自給率12%）、粗飼料が約667万トン（自給率76%）となっており、濃厚飼料の輸入依存度が88%と高く、価格変動リスクや供給不安定要因となっています。主要輸入相手国はアメリカ（720万トン、40.2%）、ブラジル（335万トン、18.7%）、アルゼンチン（221万トン、12.4%）で、特定国への依存度が高い構造です。
飼料価格動向では2022年以降のウクライナ情勢、異常気象、海上運賃高騰等により配合飼料価格が急騰し、2024年の畜産農家購入価格は豚用でトン当たり約67,800円（前年比8.2%上昇）、採卵鶏用で約71,200円（同9.1%上昇）、乳用牛用で約72,400円（同7.8%上昇）と高水準で推移しています。
配合飼料価格安定制度では生産者団体、飼料メーカー、国が1:1:1で積み立てた基金（総額約1,140億円）から、標準価格を上回る部分の9割を補填しており、2023年度は過去最高の458億円を補填しました。制度発足以来の累計補填額は約2,850億円に達し、畜産経営の安定化に重要な役割を果たしています。
国産飼料基盤強化では飼料作物の作付面積91.2万ヘクタールの維持・拡大を図り、特に飼料用米は5.8万ヘクタール（前年比2.1%増）で年間約23万トンの濃厚飼料代替効果があります。また、WCS（稲発酵粗飼料）用稲の作付面積は約3.2万ヘクタールで、水田の有効活用と粗飼料自給率向上に貢献しています。
草地改良・整備では年間約2.1万ヘクタールの草地更新を実施し、収量を平均23.4%向上させています。草地の生産性向上により、1ヘクタール当たりの乾物収量は4.8トンから6.0トンに改善され、粗飼料自給率の維持・向上に寄与しています。
エコフィード推進では食品循環資源321万トンを飼料化し、廃棄物削減と飼料費低減を両立しています。エコフィード利用農家では配合飼料費を平均15.8%削減でき、年間約420億円の経済効果を創出しています。特に液状エコフィードは豚の増体性能向上効果もあり、導入が拡大しています。
技術開発・普及では農研機構等が中心となり、国産飼料の生産性向上、品質改善、利用技術の開発を推進しています。飼料用とうもろこしの新品種開発により収量が10年前から平均18.7%向上し、飼料用米の多収品種では反収10a当たり約700kgを実現しています。
自給飼料増産では「自給飼料増産総合対策事業」により年間約28億円の支援を実施し、コントラクター（飼料生産受託組織）の育成、機械化一貫体系の普及、優良品種の導入支援等を行っています。コントラクター数は全国約1,850組織に達し、作業受託面積は約42.8万ヘクタールとなっています。
飼料安全性確保では「飼料安全法」に基づく厳格な管理により、年間約5,400件の検査を実施し、残留農薬、カビ毒、重金属等の基準超過率は0.08%と極めて低い水準を維持しています。また、BSE対策として反芻動物への動物性たんぱく質の給与禁止措置を継続しています。
国際対応では「海外飼料生産拠点確保対策事業」により南米、東南アジア等での安定調達体制を構築し、日本向け契約生産面積は約85万ヘクタールに達しています。また、飼料穀物の国際相場安定化に向けてG20農業大臣会合等で協議を主導しています。
新技術活用では精密栄養管理、AI活用飼料配合最適化、IoT給餌システム等により飼料効率を平均8.2%改善し、コスト削減と環境負荷軽減を同時に実現しています。また、メタン抑制飼料添加物の実用化により温室効果ガス削減にも貢献しています。
今後の方向性では2030年の濃厚飼料自給率20%達成に向け、飼料用米等の国産飼料作物の大幅拡大、草地生産性の向上、エコフィード利用拡大、新技術導入促進等を総合的に推進し、持続可能で安定的な飼料供給体制の確立を目指しています。
記事は、飼料政策が畜産業の競争力と持続可能性確保の基盤であり、国産飼料基盤強化、価格安定制度充実、技術革新促進を通じて、安全で安定的な飼料供給体制を構築することが国家的課題であると結論づけています。