調査開始の背景と法的根拠 経済産業省及び財務省は、2025年6月19日にAGC株式会社から財務大臣に提出された大韓民国産炭酸二カリウムに対する不当廉売関税の課税期間の延長申請について、WTO協定および関税暫定措置法等の関係法令に基づき慎重な検討を行った結果、調査の必要性を認め、両省合同による調査を開始することを決定した。炭酸二カリウムは一般に白色の粉末又は無色の液体であり、中華麺に添加するかんすいの原料、洗剤の原料、液晶パネルをはじめとするガラス類の原料等として幅広く使用される工業材料である。この物質は日本の化学工業および食品工業において重要な役割を果たしており、安定的な供給確保と公正な競争環境の維持が産業政策上不可欠とされている。
現行課税制度と延長申請の詳細 現在、大韓民国産炭酸二カリウムには、令和3年6月24日から令和8年6月23日までの5年間を課税期間として、税率30.8％の不当廉売関税が課されている。この措置は、韓国企業が正常価格を下回る価格（ダンピング価格）で日本市場に輸出し、日本国内の炭酸二カリウム製造業者に実質的な損害を与えているとの認定に基づいて導入された。今回AGC株式会社が申請した課税期間の延長は、現行措置の満了後もダンピングと損害が継続または再発する可能性があることを理由としており、経済産業省と財務省が共同で実態調査を実施し、科学的根拠に基づいて延長の要否を判断することになる。
調査プロセスと国際ルール適合性 調査は原則として1年以内に終了することとされており、今後利害関係者からの証拠提出等の機会を設けるとともに、大韓民国の輸出企業や日本国内の関連企業に対する実態調査による客観的な証拠収集を実施する。調査手順はWTO反ダンピング協定第11条（サンセット・レビュー）の規定に完全に準拠しており、透明性と公正性を確保した手続きが踏まれる。具体的には、韓国企業の輸出価格、国内販売価格、製造コストの詳細分析、日本企業の損害状況の継続性評価、市場競争への影響度測定などが行われ、国際的な貿易ルールに基づく厳格な判定が実施される。
政策判断への影響と産業保護効果 この調査結果は、不当廉売関税の課税期間延長に関する政府の最終判断において決定的な根拠となる。日本の化学工業における公正な競争環境の維持、国内製造業者の技術革新推進力確保、雇用安定という観点から、慎重かつ客観的な調査と評価が実施される。AGC株式会社をはじめとする国内製造業者の国際競争力確保と、WTO協定に基づく多角的貿易体制の適正な運用という二つの政策目標の調和が求められている。調査に係る質問状配布、公聴会開催、最終決定告示等の詳細なスケジュールと手続きは、貿易経済安全保障局貿易管理部特殊関税等調査室のホームページで逐次公開され、関係者の十分な参加機会が保障されている。この措置は日本の貿易政策における重要な先例となり、他の不公正貿易慣行に対する抑止効果も期待されている。