防衛研究所の山添博史米欧ロシア研究室長による、2025年4月~6月のロシア・ウクライナ戦争の戦況分析レポートです。この期間の主要な軍事的動向と、米国トランプ政権の仲介努力を含む外交的展開を詳細に報告しています。
主要なポイント
1. ロシア軍の主要攻撃方向と戦果
- ドネツク州ポクロウスク周辺にロシア兵11万人を投入(シルスキー総司令官発表)
- 5月の制圧地域拡大:449km²、6月:556km²(DeepStateUA分析)
- 2024年11月の730km²に次ぐ規模の前進を記録
- チャシウ・ヤル、トレツクの市街主要部を制圧し西進を試みる
2. クルスク州でのウクライナ軍作戦の終結
- 4月26日:ゲラシモフ参謀総長がプーチン大統領にクルスク州の回復完了を報告
- 北朝鮮が包括的戦略パートナーシップ条約に基づき部隊派遣で貢献
- ロシア軍はその後スムィ州に進入したが、6月にウクライナがアンドリイウカを奪還
- 主要都市陥落の危機には至らず前線は安定化
3. ロシア軍の損失状況
- 死傷者はのべ100万人超(ウクライナ発表)
- 現在も1日あたり約1,000人の死傷者が発生
- 1年半で戦車2,000両、歩兵戦闘車3,200両などの装備品を損失
- 労働力や石油・ガス産業など経済面での脆弱性が顕在化
4. 米国トランプ政権の和平仲介努力
- 4月24日:キーウ攻撃後、トランプ大統領がプーチンに攻撃停止を要求
- 4月30日:ウクライナ・米国間で鉱物資源開発協定締結
- 5月10日:欧州主要国とウクライナが30日間の無条件完全停戦を提案
- 6月25日:NATO首脳会議で加盟国の国防支出増大を評価
5. ロシア・ウクライナ直接協議の再開と成果
- 5月11日:プーチン大統領が3年ぶりの直接協議を提案
- 5月16日、6月2日:イスタンブルで協議実施(メジンスキー大統領補佐官が代表)
- 両回とも捕虜交換で合意し履行
- ロシアはウクライナの自国領撤退、外国との軍事協力終了、反ロシア政治活動禁止を要求
6. ウクライナの大規模反撃作戦
- 6月1日:SBUが「蜘蛛の巣(Pavutina)」作戦を発動
- 100機以上のドローンで4つのロシア航空基地を攻撃
- Tu-95MS爆撃機、A-50早期警戒管制機を含む40機以上の航空機に損害
- 核戦力爆撃機を避けてウクライナ攻撃用爆撃機を標的に選定
記事は、ロシアが戦術的優位を保ちつつも決定的な勝利には至らず、外交努力も立場の相違を埋められないまま、破壊と消耗が継続している状況を詳細に分析しています。