福島第一原子力発電所の廃炉作業における技術的な進展と、そこに集まる人々の挑戦について、大阪・関西万博で開催された特別トークセッションの内容を中心に解説したものです。
福島第一原子力発電所の廃炉作業は、政府の中長期ロードマップに基づき、「汚染水対策」「ALPS処理水の処分」「燃料取り出し」「燃料デブリ取り出し」「廃棄物対策」の5つの主要作業を軸に進められています。2024年9月には燃料デブリの試験的取り出しに着手し、ロードマップで定める「第3期」の工程に入りました。2024年11月に1回目、2025年4月に2回目の燃料デブリの試験的取り出しに成功しており、世界でも前例のない技術的難易度の高い取り組みが着実に前進しています。
廃炉現場の作業環境は大幅に改善されており、現在では約96%のエリアで防護服を着用せずに作業が可能となっています。燃料デブリ取り出し作業に従事した東京パワーテクノロジーの渡部敬綱さんは、「全てが初めてなので大きなプレッシャーを感じたが、成功した時は大きなやりがいを感じた」と語り、東京電力HDの横川泰永さんは「2回目は初回の反省点をいかし、トラブルなく作業が進み、現場の技術力の高さに感嘆した」と現場の奮闘ぶりを明らかにしました。
廃炉現場は様々な分野の専門家が集まるイノベーションの場となっています。原子力研究開発機構の田川明広さんは、PC上で放射線を可視化する技術や汚染状況を予測する技術の開発を進めています。狭小空間専用ドローンを開発するLiberawareの閔弘圭さんは「廃炉という過酷な環境で作り込んだ技術はどこでも信頼される」と述べ、ダイヤモンド半導体を開発する大熊ダイヤモンドデバイスの星川尚久さんは「廃炉現場で動かすことができれば、宇宙でも動かせる」と強調し、2026年に大熊町に世界初のダイヤモンド半導体製造工場を設立予定です。
次世代への技術継承も進んでおり、2016年から始まった「廃炉創造ロボコン」では高等専門学校の学生が実際の廃炉作業を想定したロボット競技に参加しています。第9回コンテストに参加した福島高専の塚田愛由希さんは「将来的には福島第一原子力発電所の廃炉現場で活躍するロボットを開発したい」と決意を述べています。
記事は、廃炉という困難な課題に誇りをもって挑戦する人々の姿と、この試練を新たな技術や産業を生み出すチャンスに変えようとする取り組みが着実に進展していることを伝えています。