観光庁が実施したMICE(Meeting、Incentive、Convention、Exhibition)施設の設備投資に関する実態調査の報告書です。国内MICE施設の老朽化の現状と設備投資における課題、海外先進事例との比較、主催者ニーズの把握について分析しています。
国内MICE施設の9割が開業から20年以上経過しており、老朽化・安全面の対応に追われている状況が明らかになりました。これまでの設備投資は法的に必要な改修・修繕が中心で、機能強化に向けた設備投資は限定的です。一部の施設では補助金を活用した設備導入を行っていますが、制度の活用も限定的な状況にあります。
設備投資における主な課題
資金面では、民営施設は自社財政状況から資金を捻出することが難しく、官営施設では自治体からの予算承認が得られないことから、機能強化に向けた設備投資が難航しています。資金面以外では、設備投資のナレッジを蓄積する人材不足や、トレンドや主催者ニーズに関する情報収集不足が課題となっています。
日本と海外先進国の違い
MICE先進国では施設を「経済インフラ」「街の共通資産」と捉え、積極的な投資対象としているのに対し、日本では「イベントを実施するハコモノ」と捉え、設備投資を費用として認識している違いが指摘されています。韓国では公共施設の設備投資において評価機関PIIMACによる事前評価制度があり、体系的な投資判断が行われています。フランクフルトでは、MICE施設を「街に人を呼び込む場所」と位置づけ、地域経済への波及効果を重視した投資が行われています。
新設MICE施設のトレンドと主催者ニーズ
新設MICE施設では、サステナビリティへの取り組み、最新テクノロジーの導入、柔軟なレイアウト設計がトレンドとなっています。特にテクノロジー面では高速インターネット環境の整備、サステナビリティ面では太陽光パネルの設置など再生可能エネルギーの利用や省エネ化が推進されており、高速インターネットは一部の主催者から必須要件の一つとなっています。
海外の主要施設では会議需要の拡大に伴う増築・改築を進めているほか、サステナビリティ対応として太陽光パネルの設置や水使用量の削減(27%削減を達成した事例も)などの取り組みが強化されています。ただし、誘致実績の上昇が見られたのは増築や改築などの大型改修を行った施設のみで、サステナビリティ対応やデジタル関連の設備投資による誘致増加効果は現時点では確認されていません。
記事は、日本のMICE施設が国際競争力を維持・向上させるためには、施設の位置づけを「ハコモノ」から「経済インフラ」へと転換し、戦略的な設備投資を行う必要があることを示唆しています。