NHK放送文化研究所が南海トラフ地震臨時情報に対するメディアの対応について研究・分析した報告です。
令和7年8月1日に公開された本研究は、メディア研究部の山本智・古澤健両研究員と世論調査部の中山準之助研究員がまとめたもので、2024年8月8日に初めて発表された「南海トラフ地震臨時情報」をめぐるメディア報道の検証と今後の課題を包括的に分析しています。
南海トラフ地震臨時情報の初発表
2024年8月8日、日向灘を震源とするマグニチュード7.1の地震発生後、気象庁は「新たな大規模地震の発生可能性が平常時と比べて相対的に高まっている」として、南海トラフ地震臨時情報の巨大地震注意を2019年の運用開始以来初めて発表しました。政府はこれを受けて地震への備えを改めて確認するよう「特別な注意」を国民に呼びかけました。
この臨時情報は従来の地震情報とは本質的に異なり、これから起きるかもしれない大規模地震への備えを呼びかける不確実性の高い情報であるため、情報の趣旨をいかに適切に国民に伝えるのか、メディアは極めて難しい対応を迫られることとなりました。
包括的な調査・研究の実施
NHK放送文化研究所では2024年10月、南海トラフ地震臨時情報について全都道府県の約9,900人に対してWEBアンケートを実施し、臨時情報の受け止め方やメディア報道への評価について詳細な分析を行いました。調査結果は4本の文研ブログにまとめられ、国民の意識と行動の実態が明らかになりました。
さらに2025年3月の「文研フォーラム2025」では、NHKや民放キー局、民放ローカル局の災害報道担当者や学識経験者を招いたシンポジウム「南海トラフ巨大地震に備える~メディアは臨時情報をどう伝えるのか~」を開催し、2024年8月の臨時情報をめぐるテレビ報道の詳細な検証が行われました。
メディア報道の課題と改善方向
シンポジウムでは、不確実性の高い情報を適切に伝える難しさが浮き彫りになりました。過度な危機感を煽ることなく、しかし必要な警戒心は維持させるという微妙なバランスが求められており、各メディアとも表現方法や情報の取り扱いに苦慮していることが明らかになりました。
特に、臨時情報の発表から解除までの期間中の継続報道のあり方、地域住民の混乱を避けながら適切な防災行動を促すための報道手法、科学的不確実性を含む情報の伝達方法などについて、メディア各社間での経験共有と改善策の検討が行われました。
今後の防災報道への提言
本研究では、WEBアンケートの分析結果と文研フォーラム2025での議論を総合的に再構成し、南海トラフ巨大地震の被害を最小限に抑えるために、メディアが臨時情報をどのように伝えるべきかについての具体的な提言がまとめられています。
記事は、メディアが科学的不確実性を含む防災情報を適切に伝達することが、国民の生命と財産を守る上で極めて重要な社会的責任であり、継続的な検証と改善が必要であると結論づけています。