NEDOのイノベーション戦略センター（TSC）は2025年7月1日、国内外の市場・技術・政策動向を俯瞰的に分析し、日本が新たに取り組むべき領域を特定・提案する報告書「Innovation Outlook Ver1.0」を発行した。本報告書は、社会課題の解決に向けて、我が国として新たに取り組むべきフロンティア領域や既存領域において取組を追加・加速すべき領域、さらには領域間の融合を図るべき領域を体系的に提示している。
策定アプローチとして、従来の技術（T:Technology）起点のアプローチに加え、多様化・複雑化する社会課題に対応するため、必要とされる新たな機能・提供価値（F:Function）を考え、既存・新規の機能や技術を組み合わせることで解決策を導く社会課題（M:Mission）起点のアプローチを重視するMFTロジックモデルを採用。このフレームワークは、Arthur D. Littleにより開発された技術経営手法を参考にしており、バックキャスト・アプローチにより社会課題解決に求められる機能・提供価値を抽出している。
Ver1.0では、TSCが過去に作成した「豊かな未来」を起点として、13のフロンティア領域等を特定。領域の抽出には「将来性（成長性・社会課題）」「技術・アイディアの革新性」「日本の優位性」「民間のみで取り組む困難性」「重要経済安保技術」の5つの観点を評価基準として用いた。
具体的な重点フロンティア領域として、現在「極限マテリアル」と「天然水素」の2領域で「フロンティア育成事業」が始動している。極限マテリアル領域では、耐熱性、強度、耐食性などの材料特性機能や、光学特性、熱伝導、導電性などの材料物性機能を極限まで高めるアプローチにより、マテリアル起点のイノベーションを誘起し、カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーの実現を目指す。天然水素領域では、地下深部での生成・移動・集積メカニズムの解明を通じて、将来的な低炭素水素の供給源としての可能性を探求している。
今後の展開として、NEDOは2040年頃の社会実装を見据え、フロンティア領域の探索から育成、国家プロジェクトや民間事業としての実施、社会実装までの全体サイクルのマネジメントフローを推進。脱炭素と経済成長の両立を実現する革新的技術の育成と、持続可能な産業基盤の構築に貢献することを目指している。