財務総合政策研究所「フィナンシャル・レビュー」第160号に掲載された序文論文です。小川英治教授が、輸出入申告データを用いた経済分析に関する共同研究の概要と意義について解説しています。
主要なポイント
1. 研究の背景と目的
- 行政データの重要性:企業の輸出入活動を網羅的に把握できる貴重なデータソース
- 研究の必要性:グローバル化が進む中での日本企業の貿易行動の詳細な理解
- 政策的意義:エビデンスに基づく通商政策・為替政策の立案への貢献
- 国際的文脈:世界各国で進む行政データを用いた経済分析への日本の参画
2. 輸出入申告データの特徴とその利用可能性
- データの包括性:全ての輸出入取引を網羅する悉皆データ
- 詳細性:企業レベル、品目レベル、相手国レベルでの分析が可能
- 時系列性:長期間にわたる企業行動の追跡が可能
- 政策評価への活用:制度変更の効果測定に最適なデータ基盤
3. 日本企業の輸出入行動に関する研究の概要
- 企業の異質性:輸出入企業と非輸出入企業の生産性格差
- 参入・退出動態:国際市場への参入・退出パターンの解明
- 取引の集中度:少数の大企業による貿易の寡占的構造
- 地理的分散:輸出先・輸入元の多様化戦略
4. 貿易建値通貨選択に関する研究の紹介
- 通貨選択の重要性:為替リスク管理と価格競争力への影響
- 日本の特徴:円建て取引の比率とその決定要因
- 企業内貿易:多国籍企業における通貨選択の特殊性
- 政策含意:円の国際化と企業の競争力強化
5. 輸出入申告官署の自由化の影響に関する研究
- 制度改革の内容:2017年10月からの申告官署選択の自由化
- 期待される効果:企業の利便性向上とコスト削減
- 実際の利用状況:制度利用企業の特徴と利用パターン
- 政策評価:規制緩和の効果測定と今後の課題
6. 今後の展望と課題
- データアクセスの拡大:より多くの研究者への開放の必要性
- 分析手法の高度化:機械学習等の新技術の活用
- 政策との連携強化:研究成果の政策立案への反映
- 国際比較研究:他国データとの比較分析の推進
7. 本研究プロジェクトの意義
- 学術的貢献:ミクロレベルの貿易理論の実証的検証
- 政策的貢献:根拠に基づく政策立案(EBPM)の推進
- 社会的貢献:日本企業の国際競争力強化への示唆
- 将来への基盤:行政データ活用研究の先駆的事例
本序文は、輸出入申告データという行政ビッグデータを用いた経済分析の可能性と、本特集号に収録された各論文の位置づけを明確に示し、日本における貿易データを活用した実証研究の新たな地平を開くものとなっています。