財務省が2025年6月27日に公表した「対内直接投資審査制度に関する年次報告書(2024年度)」について、外為法改正から5年を迎えた投資審査制度の運用実績と今後の方向性を包括的に分析したものです。
主要なポイント
1. 制度運用5年の総括と基本理念
- 令和元年外為法改正の施行から2025年5月で5年が経過、制度の定着と運用実績を総括
- 取引自由の原則の下、健全な対日投資促進と経済安全保障確保のバランスを重視
- 内外資源の融合によるイノベーション促進と地域投資拡大・雇用創出を政策目標に設定
- 規制とマーケットの双方に配慮した「丁寧でメリハリのある制度設計」を基本方針に
2. 2024年度の事前届出実績と傾向分析
- 事前届出総件数は2,171件(取得時1,638件、行為時493件、特定取得40件)
- 非上場会社への投資が1,460件と上場会社178件を大きく上回る構造
- 国籍別では日本501件、米国447件、英領ケイマン139件、シンガポール91件が上位
- 日本からの届出が多い理由は外国資本50%以上の日本企業が外国投資家扱いのため
- 業種別では電気機械、金融・保険、化学・医薬、情報通信が中心
3. 事前届出免除制度の活用状況
- 2024年度の免除利用は32,532件と前年度30,872件から5.4%増加
- 一般免除が31,911件(98.1%)、包括免除が621件(1.9%)の内訳
- 外国金融機関による包括免除利用が定着、制度の効率的運用に寄与
- 免除基準遵守を前提とした健全な投資促進と審査負担軽減の両立を実現
4. 審査体制強化と制度改正
- 2025年5月に「特定外国投資家」制度を導入、外国政府の情報収集活動への協力義務を負う投資家を対象化
- 機微情報の外国政府への流出リスクに対応、リスクの高い投資に着目した規制強化
- 審査における考慮要素を公表、投資先企業の事業内容、外国投資家の属性、投資内容を総合判断
- 関係省庁との連携強化により専門的知見を活用した審査体制を構築
5. 執行強化と違反対応
- 事前届出の取下げ件数は363件(前年度399件から減少)
- 無届事案の検知強化、報告徴求による事実関係把握を徹底
- 中止命令等の発動実績あり(過去に電力関連会社への投資で中止勧告・命令)
- 罰則適用も含めた厳格な法執行により制度の実効性を確保
6. 国際連携と今後の展望
- G7各国との投資審査制度比較では、日本の事前届出件数2,171件は中位水準
- 米国1,024件、英国851件、ドイツ306件、フランス534件等と比較し適正規模
- 審査期間の短縮化を推進、平均審査期間の効率化により投資家の予見可能性向上
- 社会経済環境の変化に応じた不断の制度見直しと透明性向上への継続的取組
記事は、対内直接投資審査制度が経済安全保障環境の変化に対応しつつ、健全な投資促進との両立を実現してきた5年間の実績を示すとともに、今後も継続的な制度改善により日本経済の健全な発展に貢献していく方針を明確にしています。