ジェトロが2025年7月17日に公開した、英国における女性の健康分野、特にフェムテック(Female×Technology)のエコシステムの発展とその成果关于分析したレポートです。
フェムテックとは、Female(女性)とTechnology(テクノロジー)をかけあわせた言葉で、女性の悩みをテクノロジーの力で解消するために生まれた分野です。2012年に月経管理アプリ「Clue」創業者イダ・ティン氏がベルリンでこの用語を生み出してから10年余りが経過し、市場は急速に拡大しています。筆者が実施した日本人対象のアンケートでは、10代から30代の女性の8割以上が月経管理アプリの利用歴があることが判明しました。
英国では働く女性の割合が7割を超え、女性の社会進出促進の一環として健康経営における女性の健康への意識が高まっています。特徴的なのは更年期障害への注目度の高さで、2015年に英国国立保健医療研究所(NICE)が「更年期ガイダンス」を発表、2020年には義務教育科目で女性更年期を取り扱うようになり、2023年にはホルモン補充療法(HRT)前払い制度を導入して年間約20ポンドの個人負担節約を実現しました。
英国在住の日本人女性へのアンケートでは、「英国の方が女性の体や健康相关的サービスにアクセスしやすい」との回答があり、その理由として「ピルの処方」「大学での生理用品配布」「頻繁な情報提供」が挙げられました。英国ではピルは診察不要で多くの場合無料処方され、セクシュアルヘルスロンドン(SHL)などのオンラインサービスで即日無料処方・自宅配送が可能です。また2021年にはタンポン税が廃止され、生理用品への5%の付加価値税がゼロになりました。
日本でも経済産業省の「フェムテック等サポートサービス実証事業費補助金」導入や、2020年の自民党「フェムテック振興議員連盟」結成など、官民での取り組みが進んでいます。丸紅では福利厚生メニューとしてセミナーやオンライン診療サービスを提供し、サイバーエージェントは「マカロンパッケージ」制度により97.1%の産休・育休後復帰率を実現しています。一方で、日本の性教育における「はどめ規定」により、女性の健康に関する正しい知識習得の機会が制限されている課題も指摘されています。
ピッチブックによると、2025年5月時点で世界には2,004社のフェムテック企業が存在し、英国は米国に次いで2番目にフェムテック企業が多い国です。英国の支援機関としては、12週間のアクセラレーションプログラムを提供する「フェムテックラボ」や、NHSのイノベーション部門である「ヘルス・イノベーション・ネットワーク(HIN)」があります。
英国の主要フェムテック企業には、環境配慮型月経用品のサブスクリプションを提供する「デイ」、ウェアラブル授乳製品の「エルビー」、AIを用いた乳がん検査ツールの「ミクリマ」、自宅ホルモン検査の「ハーティリティ・ヘルス」、更年期サポートアプリの「ビラ・ヘルス」があります。特筆すべきは「フロー・ヘルス」で、70以上の体のサインを追跡しAIで生理周期を予測するアプリ「フロー」を提供し、2024年に欧州初のフェムテックユニコーン企業となりました。
課題として、女性起業家への投資の難しさが挙げられています。英国ビジネス銀行の報告によると、女性のみのチームへのVC投資額は全体の10%に留まり、男性のみのチーム(67%)を大きく下回ります。また、日本人男性へのアンケートでは53%が「フェムテック」を自身と無関係と感じており、市場理解の促進も課題となっています。