中国はなぜイラン・イスラエル戦争について抑制的だったのか:NIDSコメンタリー第388号

防衛省防衛研究所の山口信治主任研究官が、2025年6月のイラン・イスラエル戦争における中国の抑制的な対応について分析したNIDSコメンタリーです。

イラン・イスラエル戦争の概要

2025年6月13日、イスラエルはライジング・ライオン作戦を開始し、イランの重要な軍事拠点と要人に対してミサイルやUAVを用いた大規模攻撃を実施しました。続いて6月21日には米国がナタンズやエスファハンの核関連施設に対してバンカーバスターによる空爆を行い、6月25日に停戦が成立しました。この戦争でイランは軍事力の中核に大きな打撃を受け、核開発プログラムも後退し、政治指導者は斬首作戦の脅威にさらされることとなりました。

中国の抑制的な対応

中国は外交的立場としてイスラエルや米国の行動を明確に非難したものの、イランを助けるような実質的な行動は取りませんでした。習近平国家主席は6月19日にプーチン大統領と電話会談を行い、事態のエスカレーション回避と停戦の重要性を強調しました。王毅外相も関係各国の外相と電話会談を重ねましたが、米国やイスラエルに対する明確な警告は発せず、目立った外交も展開しませんでした。これは、「抵抗の枢軸」の一員として期待されていた中国の役割からすると、極めて控えめな対応でした。

抑制的対応の第一の要因:米国への配慮

中国が抑制的であった第一の要因は、米国への刺激を避けるという配慮です。第二次トランプ政権の誕生を控え、米中関係は新たな関係構築段階にありました。ジュネーブにおける関税合意やその後の中国の対米レアアース輸出規制緩和など、トランプ政権との関係構築に見込みがある状況で、中国の死活的利益が絡まないイランをめぐって対米関係を悪化させる理由はありませんでした。また、2022年のロシア・ウクライナ戦争に続く中東での紛争は、米国の関心を中国から逸らせる効果があり、中国としては目立たないようにしたいという思惑が働いたと分析されています。

抑制的対応の第二の要因:中国・イラン関係の限界

第二の要因は、中国とイランの関係がそれほど緊密でないことです。両国関係は「隔たりのある戦略的パートナーシップ」と呼ばれ、相互に不信感を持っています。イラン側では過度な対中依存への警戒が強く、2021年に締結された25年包括協定も順調に履行されていません。中国側では、イランが中国を十分に尊敬せず、中国からの兵器購入に積極的でないことへの批判があります。また、イランは結局のところ米国と取引したいだけという見方も強く、金燦栄人民大学教授は両国関係を「唇歯の関係」ではないと評価しています。

今後の中国・イラン関係の展望

この戦争により「抵抗の枢軸」が打撃を受け、イスラエルの軍事的優越が確立されることは、中国の戦略的利益に反します。中国にとって、米国と親密なイスラエルの地域における優越は、中国がこの地域で影響力を伸ばすうえで脅威となりうるからです。このため、中国が米国の関心を引き付けないレベルで静かにイラン関与を深める戦略的インセンティブは存在します。具体的には、2021年の25年包括協定の着実な実施、破壊されたイランの防空システムの再建支援、サイバー攻撃で脆弱性が露呈した情報システムの再構築などが考えられます。

本論文は、今回の戦争が中国・イラン関係の弱さを象徴する出来事となった一方で、今後の中国の中東戦略の見直しを迫る転機となった可能性も指摘しています。

※ この要約はAIによって自動生成されました。正確性については元記事をご参照ください。