農畜産業振興機構が報告したドイツ・ノルトライン・ヴェストファーレン州の野生イノシシにおける初のアフリカ豚熱(ASF)発生について、EUでの感染拡大状況と防疫対応を解説したものです。
2025年7月、ドイツ西部のノルトライン・ヴェストファーレン州で、野生イノシシから同州初となるアフリカ豚熱ウイルスが検出されました。発見場所はオランダ、ベルギーとの国境に近い地域で、これまでドイツ東部に限定されていた感染地域から大きく離れた地点での発生となり、EU全体に衝撃を与えています。
アフリカ豚熱は、豚とイノシシに感染する致死率の高いウイルス性疾病で、有効なワクチンは存在しません。感染した豚の致死率はほぼ100%に達し、養豚産業に壊滅的な被害をもたらす可能性があります。人には感染しませんが、感染した肉製品を介して遠距離に拡散する特性があり、防疫が極めて困難な疾病です。
ドイツ当局は直ちに厳格な防疫措置を実施しました。発見地点から半径3キロメートル以内を感染ゾーン、15キロメートル以内を制限ゾーンに設定し、養豚場からの豚の移動を禁止しました。また、野生イノシシの個体数削減のため、狩猟を強化するとともに、電気柵の設置により野生イノシシの移動を制限しています。死亡した野生イノシシの積極的な探索・検査も実施され、感染範囲の把握に努めています。
国際的な影響として、日本を含む多くの国がドイツ産豚肉および豚肉製品の輸入を停止または制限しました。EU域内でも、感染地域からの豚の移動は厳格に管理されており、ドイツの養豚業界は大きな経済的打撃を受けています。特に、ノルトライン・ヴェストファーレン州はドイツ有数の養豚地帯であり、約650万頭の豚が飼養されているため、産業への影響が懸念されています。
記事は、野生動物を介した越境性動物疾病の脅威と、国際的な防疫協力の重要性を示すとともに、日本においても野生イノシシのASF監視体制強化の必要性を示唆しています。