国土交通省が令和7年7月に改訂した「自動車運送事業者における睡眠時無呼吸症候群対策マニュアル~SAS対策の必要性と活用~」に関する報告です。
マニュアル改訂の背景と目的
漫然運転や居眠り運転は重大事故の主要な原因の一つであり、その背景には眠気を生じる様々な病気が存在します。中でも睡眠時無呼吸症候群(SAS:Sleep Apnea Syndrome)は、睡眠中に呼吸が反復して停止する病気で、日中の強い眠気や集中力低下を引き起こすにもかかわらず、本人が自覚していない場合が多いという特徴があります。本マニュアルは、自動車運送事業者がSAS対策を効果的に実施するための具体的な手順と方法を示すことを目的として作成されました。
対象事業者と関係者
本マニュアルは、トラック、バス、タクシーのすべての自動車運送事業者を対象としています。具体的な活用者として、事業者の経営層、運行管理者、そして運転者自身が想定されています。各立場において必要な知識と実施すべき対策が体系的に整理されており、組織全体でSAS対策に取り組むことができる構成となっています。また、簡易版も用意されており、忙しい現場でも要点を素早く把握できるよう配慮されています。
SASの早期発見と診断の重要性
SASは適切な治療により症状の改善が期待できる疾患ですが、早期発見が重要となります。マニュアルでは、スクリーニング検査から精密検査に至る具体的な手順が示されています。初期段階では、問診票やパルスオキシメータを用いた簡易検査により、SASの可能性がある運転者を効率的に抽出します。その後、必要に応じて睡眠ポリグラフ検査などの精密検査を実施し、確定診断へとつなげます。検査費用や実施医療機関の情報も提供されており、事業者が実際に対策を進める際の参考となるよう配慮されています。
治療と就業管理の実践
SASと診断された運転者に対しては、CPAP(持続陽圧呼吸療法)などの治療法が有効であることが示されています。マニュアルでは、治療開始後の効果確認方法や、治療継続のためのフォローアップ体制の構築方法が詳述されています。また、治療中の運転者の就業管理についても、安全確保と雇用継続の両立を図るための具体的な指針が示されています。プライバシー保護に配慮しながら、運転者の健康管理情報を適切に取り扱う方法についても言及されています。
組織的な取組みの推進
SAS対策を効果的に実施するためには、組織全体での取組みが不可欠です。マニュアルでは、経営トップのリーダーシップの下、安全管理部門、運行管理部門、人事部門が連携して対策を推進する体制づくりが推奨されています。また、運転者への教育・啓発活動の実施方法、定期的な健康診断への組み込み方、産業医との連携方法など、継続的な取組みを可能にする仕組みづくりについても詳しく解説されています。
本マニュアルは、自動車運送事業における安全運転の確保と運転者の健康管理の両立を図るための実践的なガイドラインとして、事業者の安全対策の向上に貢献することが期待されています。