この報告書は、国土交通省海事局が設置した「日本のクルーズ市場の持続的発展に向けた有識者検討会」が令和7年7月に取りまとめた、日本のクルーズ産業の振興に関する包括的な政策文書です。令和7年2月から4回にわたる検討を経て、2030年までに日本人のクルーズ人口を100万人とする新たな目標を設定し、その実現に向けた具体的な方策を提示しています。
世界のクルーズ市場は、2023年には3,170万人とコロナ禍前水準を超えて回復し、1,686億ドルの経済効果と160万人の新規雇用を創出しています。しかし、日本の観光人口に占めるクルーズ人口の割合はわずか0.03％と、米国の0.59％、カナダの0.27％と比較して極めて低い水準にとどまっています。日本では1989年の「クルーズ元年」以降、一時は船舶建造が進んだものの、需要の伸び悩みから現在は「飛鳥Ⅱ」「にっぽん丸」「三井オーシャンフジ」の3隻のみが運航している状況です。
2019年の日本人クルーズ人口35.6万人のうち、3分の2は外国船社による日本発着クルーズが占めており、外国船の寄港増加が日本人のクルーズ利用を牽引しています。世界のクルーズ市場では、カジュアルクラスが約80％、プレミアムクラスが約17％、ラグジュアリー・エクスペディションクラスが約3％を占めますが、日本のクルーズ事業者は主にラグジュアリー層向けのサービスに特化しており、大衆層へのサービス提供が不十分であることが課題となっています。
報告書では、クルーズ産業が提供する価値として、日本の新たな産業・雇用の創出、観光立国への貢献、海事振興への貢献、交流の促進、新たなワークスタイルの提供を挙げています。特に観光立国の観点では、クルーズは地方への誘客効果が高く、滞在時間の長さから消費額も大きいという特徴があります。
クルーズ未経験者に対する調査では、「価格が高い」「日常から離れた非現実的なイメージ」「敷居が高い」といった心理的障壁が存在することが明らかになりました。これらの課題に対応するため、①日本のクルーズ事業者による船舶供給の拡大、②個人旅行に対応した販売チャネルの多様化、③デジタル技術を活用した情報提供の充実などの方策が提案されています。
セグメント別の発展方策では、クラス別にはカジュアル・プレミアムクラスの船舶供給拡大、国内・海外別には国内クルーズの魅力向上と海外クルーズの選択肢拡大、販売・情報提供面では旅行会社との連携強化やオンライン予約システムの充実が重要とされています。
新たな目標である2030年までのクルーズ人口100万人達成に向けて、産官学が一体となった取り組みが求められており、特に若年層への訴求、ファミリー層向けサービスの充実、地方港の活用促進などが重点施策として位置づけられています。この目標達成により、日本のクルーズ産業が観光立国の実現に大きく貢献することが期待されています。