国土交通省が公表した「ダイビング船安全対策ガイドライン」について、多数のダイバーを乗せた船舶による海難事故が相次いだことを踏まえ、安全対策をハード・ソフト両面から包括的にまとめたものです。
ガイドラインは、2025年4月より有識者や業界関係者からなる「ダイビング船の安全対策検討委員会」を計4回開催し策定されました。対象となる「ダイビング船」は、船舶検査証書上の用途に関わらず、実態としてダイビング目的で使用される船舶を広く含み、通常は遊漁船として使用される船舶でも、一時的にダイビング目的で使用する場合は本ガイドラインの適用対象となります。
安全管理体制の充実として、運航事業者は風速・波高・視程の具体的な数値基準を含む運航可否判断基準を設定し、船長以外に安全管理を行う者を置いてダブルチェック体制を構築することが求められています。気象・海象情報は気象庁、海上保安庁海洋情報部等から定期的に収集し、緊急時対応計画として緊急連絡網とフローチャートを作成・掲示することが定められています。また、海中のダイバーと船長との緊急連絡手段として、シグナルフロートや海洋GPS端末の活用、ラダーや船体をハンマーで叩く打音信号などの事前申し合わせが推奨されています。
船長等が運航時に守るべき事項として、発航前検査の実施、空気タンク等ダイビング器材の固定状況・本数の点検、適切なアンカリング(水深の5〜7倍の長さのロープ使用)が義務付けられています。ダイバー潜水中は国際信号旗「A」を掲揚し、エンジンは必ず停止、やむを得ない場合でもクラッチレバーを中立にし物理的に固定する器具等の追加安全対策が必要です。航行中は船体周囲にダイバーがいないことを確実に確認してからエンジンを始動し、ダイビングポイント付近では低速力で航行することが定められています。
器材重量を考慮した安全対策として、積載可能な潜水器材の数・重量・場所を船内に掲示し、手荷物注意書に基づく定員計算が必要です。例えば、最大搭載人員30人の船舶に旅客1人当たり40kgの手荷物を搭載した場合、乗船可能人数は23人に制限されます。空気タンクは船体中心線付近に搭載し、2段を超えて積み上げず、適切に固縛することが義務付けられています。
地域連携による安全活動として、SNSのグループトーク機能等を活用した事業者間の情報共有体制構築、定期的な勉強会や合同訓練の実施が推奨されています。訓練内容には心肺蘇生法(CPR)、自動体外式除細動器(AED)使用法、酸素供給法(OFA)の習得が含まれ、海上保安庁との合同潜水訓練なども効果的とされています。
過去15年間(2008〜2023年)の統計では、ダイビング船による事故は38件発生し、そのうち「乗揚」が最多で、死傷者を伴う事故は全体の約3割(12件、うち死亡事故2件)を占めています。事故原因として、気象・海象情報収集の不備、潜水中の見張り不在、プロペラへの巻き込み事故などが報告されており、これらの教訓を踏まえた具体的な防止策が示されています。
記事は、本ガイドラインを「全国共通のベースライン」として、地域の実情に応じた安全確保の取り組みを進め、「安全が最優先」「無理をしない」「基本を守る」という意識を業界全体に浸透させることで、日本のボートダイビングがより安全・安心なものとして発展することを期待していると結論づけています。