経済産業研究所(RIETI)の戸堂康之プログラムディレクター・ファカルティフェローが、中国の一帯一路構想が各国の直接投資、貿易、政治関係に与える影響について3本の研究論文を基に解説したインタビュー記事です。2013年から2021年の期間を対象に、積み重ね差の差分析手法を用いて包括的な実証分析を行った結果を紹介しています。
一帯一路構想の規模と参加国の拡大
一帯一路構想は2023年12月時点で151カ国が参加する巨大な経済圏となり、2013年から2021年の間に中国が行った財政支援総額は210兆円に上ります。2018年以降は財政支援が急減したものの、新規参加国は80カ国と全体の約半数を占め、世界各国の交通・エネルギー・ICTインフラ整備を通じた経済圏拡大が続いています。
各国からの直接投資への影響
各国からの直接投資への影響を分析した結果、中国からの直接投資は一帯一路参加により増加し、米国からの直接投資も戦略的対抗の必要性から増加することが判明しました。一方、日本・ドイツからの直接投資は変化がなく、英国からの直接投資は経済安全保障上の懸念から減少しており、投資国によって効果が異なることが初めて実証されました。
日本との政治経済関係への影響
日本との政治経済関係については、日本のインフラプロジェクト受注件数が一帯一路参加国で減少し、参加国から日本への要人訪問数も減少しています。ただし、日本からのODA供与額と要人訪問回数には変化がなく、中国のインフラプロジェクトによるクラウドアウト効果が確認されました。
貿易への影響と非参加国への波及効果
貿易面では、参加国から中国への輸出が増加するとともに、参加国から中国以外への輸出も増加し、輸出力全体が向上しています。興味深いことに、非参加国で参加国と類似産業構造を持つ国では対中輸出が減少し、参加しないことによる機会損失が発生しています。
ガバナンスへの影響
ガバナンスへの影響については、参加国の汚職度合いが低下し、法の支配レベルが向上するという一般的な認識とは逆の結果が得られました。ただし、ミクロデータでは援助プロジェクト周辺地域で汚職増加も確認されており、ガバナンスへの影響は現時点で明確ではありません。
分析手法の特徴と政策的インプリケーション
研究では積み重ね差の差分析(staggered DID)を採用し、参加年が国によって異なることによる推定の偏りを修正しています。参加前の貿易・投資変化が非参加国と平均的に同じという前提を満たす工夫がなされ、初期参加国の方が効果が大きい可能性も考慮されています。
政策的インプリケーションとして、グローバルサウス諸国との関係強化がサプライチェーン強靱化・経済安全保障に重要であることが示されました。日本のプレゼンスは横ばいまたは一定程度減少しており、OECDの対外援助ルールの厳格さが中国援助を歓迎する要因の一つとなっています。援助国・被援助国双方がウィンウィンになるODAの在り方の検討が必要であることが強調されています。