経済安全保障分野における国際連携と各国の施策について、特にフィンランドの官民連携による取り組みを詳しく解説したものです。
経済安全保障における国際連携の重要性
同志国との連携強化の必要性
- 経済・技術分野が安全保障と密接に結びつく時代において一国での対応には限界
- 自由、民主主義、人権、法の支配といった普遍的価値を共有する国との連携が重要
- 中長期的にルールベースの国際経済秩序の維持・再構築を目指す必要性
- 地理的に遠い国でもサプライチェーン強靱化やレジリエンス強化で有効な連携が可能
日英経済版「2プラス2」での合意事項
- 2025年3月に東京で日英の外務・経済閣僚による経済版「2プラス2」を開催
- サプライチェーン強靱化や公正な市場発展など経済安全保障上の課題への対処で合意
- 英国のCPTPP加入(2024年12月)を日本が歓迎
- CPTPPがインド太平洋地域でルールに基づく経済秩序推進の重要な柱であることを確認
フィンランドの包括的安全保障体制
包括的安全保障の概念と7つの重要機能
- 自然災害、パンデミック、軍事衝突、テロ、サイバー攻撃など様々な脅威に備える概念
- 「経済・インフラ・供給の保障」「リーダーシップ」「国際・EU活動」「防衛力」が主要機能
- 「国内安全保障」「国民と公的サービスの機能」「精神的強靭性」も重要要素として位置づけ
- 特に「経済・インフラ・供給の保障」が経済安全保障とレジリエンス強化の理念的基盤
国家緊急供給庁(NESA)の役割
- 1992年に経済雇用省下に設置された危機対応・備蓄の司令塔組織
- リスク分析、重要物資の備蓄・管理、危機対応体制構築、官民連携促進が主要任務
- 戦略的備蓄料を財源とする基金を保有し、備蓄企業に補償金を支払う仕組み
- Fortum社とメリ=ポリ石炭火力発電所の緊急時再稼働体制維持契約を締結(2024年)
フィンランドの官民連携体制
国家緊急供給組織(NESO)の構成
- 国内約1500企業が7業種28部門に分かれて参画する官民連携の実務部隊
- 食料供給、エネルギー供給、輸送・物流、保健衛生、金融・保険、産業、その他で構成
- 電気・ガス・水道、交通、情報通信などの重要インフラの確保・防護計画を策定
- NESAとNESOが共同で情報共有や演習を実施
経済インテリジェンスと企業支援
- 民間企業から情報を収集・集積・分析し、フィードバックする仕組みを構築
- 具体的な状況を想定した「リスクシナリオ」を作成し共同訓練に活用
- 企業が自社インフラの脆弱性を把握できる自己分析ツールを提供開始
- 電力会社のサイバー攻撃耐性分析により停電リスク軽減が可能に
成功要因と日本との連携展望
フィンランドの官民連携成功の3要素
- 参加するすべての主体に有益な「プラットフォーム」の存在
- 継続的な対話による「信頼」関係の構築
- 国家の安全保障に貢献するという「共通の目標」の共有
- 歴史的背景(ソ連侵攻経験)による高い国民の危機意識が土台
日本・フィンランド協力の可能性
- 両国とも重要鉱物の多くを輸入に依存する共通点
- 日本の半導体・自動車・電子機器の大規模サプライチェーンとの連携可能性
- 2025年6月に経済安全保障を含む両国協力強化の首脳共同声明を発表
- 民主主義・人権・平等性重視の価値観とテクノロジー先進国としての共通性
記事は、地政学的リスクが高まる中、官民一体となった経済安全保障への取り組みと、価値を共有する国々との連携強化が日本の経済安全保障実効性向上に不可欠であると結論づけています。