農林水産省の「畜産・牛乳・乳製品」は、我が国の酪農・乳業の現状と政策的取り組みを包括的に解説したものです。
国内酪農の現状では、乳用牛飼養戸数が約1万3,200戸(前年比3.8%減)、飼養頭数が約129.6万頭(同0.9%減)と減少傾向にありますが、1戸当たりの平均飼養頭数は98.2頭(前年比3.0%増)と規模拡大が進んでいます。生乳生産量は年間約733.8万トンで、このうち飲用向けが約375.2万トン(51.1%)、乳製品向けが約358.6万トン(48.9%)となっています。
地域別生産では北海道が全体の57.3%(約420.5万トン)を占め、都府県は42.7%(約313.3万トン)となっています。北海道では大規模専業経営が主体で1戸当たり平均135.8頭を飼養し、都府県では平均58.4頭と規模格差が顕著です。主要産地では北海道別海町(年間43.2万トン)、中標津町(29.7万トン)、標茶町(22.1万トン)が上位を占めています。
生乳の流通では指定生乳生産者団体制度により全体の約94.2%が系統出荷され、価格安定と品質管理が図られています。2023年の生乳取引価格は北海道でキロ当たり91.5円、都府県で97.8円となっています。また、加工原料乳生産者補給金制度により年間約190億円の補給金が支払われ、酪農経営の安定化に寄与しています。
乳製品の生産では、バターの国内生産量が年間約6.7万トン、脱脂粉乳が約8.9万トン、チーズが約5.1万トン(うちナチュラルチーズ約2.8万トン)となっています。国産チーズの品質向上により、ナチュラルチーズの国産比率は20年前の14.2%から35.8%まで上昇しています。
需給調整では農畜産業振興機構が需給安定事業を実施し、バター・脱脂粉乳の適正在庫(バター約3.5万トン、脱脂粉乳約6.2万トン)を維持しています。2023年度は需給ひっ迫により緊急輸入としてバター約1.8万トン、脱脂粉乳約0.9万トンを実施しました。
品質管理では「牛乳の日」(6月1日)、「牛乳月間」(6月)の啓発活動により消費拡大を図っており、学校給食用牛乳の年間供給量は約4.2億リットル(全消費量の約12.3%)に達しています。また、生乳の細菌数基準を国際水準に引き上げ(1ml当たり10万個以下)、品質向上を推進しています。
経営支援では「酪農経営安定対策事業」により、飼料価格高騰対策として年間約85億円の補填金を交付し、配合飼料価格安定制度では年間約120億円の基金造成を行っています。また、「畜産クラスター事業」により搾乳ロボット、自動給餌システム等の導入支援を実施し、労働時間の削減(平均15.7%)と生産性向上(乳量平均8.3%増)を実現しています。
環境対策では家畜排せつ物法に基づく適正な堆肥化により、年間約1,240万トンの牛ふん堆肥を生産し、耕種農業での有効活用率は86.7%に達しています。また、メタン削減技術として乳用牛向けメタン抑制飼料添加物の実証試験を実施し、13.5%のメタン削減効果を確認しています。
輸出促進では乳製品輸出額が2023年に過去最高の12.8億円を記録し、主要輸出先は香港(38.2%)、台湾(21.7%)、中国(15.4%)となっています。特に粉ミルクの輸出が前年比18.6%増の4.2億円と大幅に伸長しています。
課題対応では労働力不足に対して外国人技能実習生約3,850人、特定技能外国人約1,240人の受け入れにより対応しており、また女性酪農家の経営参画促進により約28.4%の経営で女性が中心的役割を担っています。
記事は、酪農・乳業が国民の栄養改善と健康増進に不可欠な産業であり、持続可能な経営基盤の確立と国際競争力強化を通じて、安定した牛乳・乳製品の供給体制を維持することが重要であると結論づけています。