農林水産省の「畜産振興・飼料関連総合情報」は、畜産業の持続可能な発展に向けた飼料政策と総合的な畜産振興策を網羅的に解説したものです。
飼料情勢では、年間需要量約2,456万トンのうち濃厚飼料が1,789万トン（自給率12%）、粗飼料が667万トン（自給率76%）となっており、輸入依存度の高い濃厚飼料の安定調達が重要課題となっています。主要輸入先はアメリカ（720万トン）、ブラジル（335万トン）、アルゼンチン（221万トン）で、2022年以降のウクライナ情勢等により価格が高騰し、畜産経営を圧迫しています。
配合飼料価格安定制度では2023年度に過去最高の458億円を補填し、畜産経営の安定化に大きく貢献しました。同制度は飼料メーカー、畜産農家、国が1:1:1で基金を造成し、標準価格を上回った場合に差額の9割を補填する仕組みです。基金残高は約380億円（2024年3月末）で、継続的な価格高騰に対応するため増額が検討されています。
国産飼料基盤強化では、飼料作物作付面積91.2万ヘクタールの維持・拡大を図っており、特に飼料用米の作付面積は約5.8万ヘクタール（前年比2.1%増）と着実に増加しています。飼料用米の利用により濃厚飼料の輸入代替効果は年間約23万トン相当で、食料自給率向上にも寄与しています。
エコフィード推進では食品循環資源321万トンを飼料化し、廃棄物削減と飼料費低減の両立を実現しています。特に液状エコフィード（食品残さの液状飼料化）は豚の増体性能向上効果もあり、導入農家では配合飼料費を平均15.8%削減しています。認定事業者数は約1,840事業者に達し、年間約420億円の経済効果を創出しています。
草地改良事業では年間2.1万ヘクタールの更新・改良を実施し、単収向上（平均23.4%増）と品質改善を図っています。また、ICTを活用したスマート草地管理システムの導入により、適期収穫による品質向上と労働時間削減（平均18.7%減）を実現しています。
畜産環境対策では家畜排せつ物の適正処理・利用により、年間約8,200万トンの堆肥を生産し、化学肥料削減効果は窒素成分で12.8万トンに達しています。また、メタン削減技術として乳用牛向け飼料添加物により13.5%の削減効果を確認し、2030年までに20%削減を目標としています。
新技術導入では精密栄養管理システムにより個体別最適給餌を実現し、飼料効率を平均8.2%改善しています。また、AI活用による飼料配合最適化システムは栄養バランスを維持しつつコストを4.2%削減する効果を上げています。
国際対応では海外飼料生産拠点確保対策により、南米・東南アジア等での安定調達体制を構築しており、日本向け契約生産面積は約85万ヘクタールに達しています。また、飼料安全性確保のため輸入飼料の残留農薬等検査を年間5,400件実施し、基準超過率は0.08%と低水準を維持しています。
畜産DX推進では自動給餌システム、発情発見システム、搾乳ロボット等の導入により、労働時間を平均16.8%削減し、生産性を8.3%向上させています。導入支援として「畜産クラスター事業」により年間約450億円の助成を実施し、全国約1万2,400戸の畜産農家の規模拡大・効率化を支援しています。
人材確保では外国人技能実習生約7,850人、特定技能外国人約2,240人を受け入れ、労働力不足に対応しています。また、新規就農支援により年間約850人の新規参入を実現し、次世代人材の確保を図っています。
輸出促進では畜産物輸出額が2023年に478億円を記録し、和牛肉（258億円）、乳製品（12.8億円）、鶏卵（8.2億円）が主力となっています。2030年の目標である1,300億円達成に向け、輸出向け処理施設の認定拡大、品質管理体制の強化を推進しています。
記事は、飼料政策が畜産業の競争力強化と持続可能性確保の基盤であり、国産飼料基盤強化、価格安定制度充実、新技術導入、環境対応等を総合的に推進することで、安全・安心で持続可能な畜産業の実現を目指すことが重要であると結論づけています。