農林水産省の「畜産環境対策」は、畜産業における環境負荷軽減と持続可能な発展を両立させるための政策的取り組みを詳述したものです。
家畜排せつ物処理の現状では、全国で年間約8,200万トンの家畜排せつ物が発生し、このうち約97.3%が適正処理されています。内訳は牛ふんが約5,840万トン（71.2%）、豚ふんが約980万トン（12.0%）、鶏ふんが約1,380万トン（16.8%）となっています。処理方法別では堆肥化が約6,970万トン（85.0%）、液肥化が約820万トン（10.0%）、メタン発酵が約410万トン（5.0%）です。
家畜排せつ物法に基づく管理基準では、対象となる畜産農家約2万3,400戸のうち99.1%が適正処理を実施しており、不適正処理農家への指導により改善率は98.7%に達しています。都道府県による年間約4,800件の立入検査により管理状況を監視し、基準違反に対しては改善命令等の行政指導を実施しています。
堆肥利用促進では耕種農家との連携により約6,970万トンの堆肥が有効利用され、化学肥料削減効果は窒素成分で約12.8万トン、リン酸成分で約8.6万トン、カリ成分で約14.2万トンに相当します。これにより化学肥料使用量の約28.4%を代替し、年間約680億円の経済効果を創出しています。
温室効果ガス削減では畜産業から排出される温室効果ガス（CO2換算）は年間約1,420万トンで、全産業の約1.1%を占めています。内訳はメタンが約1,180万トン（83.1%）、一酸化二窒素が約240万トン（16.9%）で、削減目標として2030年までに2013年比20%削減を設定しています。
メタン削減技術では乳用牛向けメタン抑制飼料添加物により13.5%の削減効果を確認し、肉用牛では11.2%の削減を実現しています。全国普及により年間約159万トンのメタン削減が期待され、実証試験を経て2025年から本格導入を予定しています。
バイオガス発電では家畜排せつ物を活用したメタン発酵施設が全国287か所で稼働し、総発電容量は約42.8MWに達しています。年間発電量は約2.8億kWhで、約78,000世帯の消費電力に相当します。売電収入と処理費削減により、平均的な酪農家では年間約280万円の収益向上効果があります。
液肥利用推進では豚ふん・鶏ふんの液肥化により約820万トンを生産し、水田・畑地での有効活用が進んでいます。液肥利用により化学肥料コストを平均43%削減でき、耕種農家の経営改善にも寄与しています。利用促進のため「畜産環境整備事業」により処理・貯蔵施設整備を支援しています。
臭気対策では「畜産経営に起因する臭気対策技術」により脱臭装置、微生物消臭剤等の導入を推進し、周辺住民との調和を図っています。効果的な脱臭技術により臭気指数を平均68%削減し、苦情件数は10年前の約3分の1まで減少しています。
水質保全では畜舎排水の適正処理により、河川・地下水への環境負荷を最小化しています。排水処理施設の設置率は大規模農家（常時飼養頭数500頭以上）で98.4%、中小規模農家でも82.6%に達し、水質汚濁防止法の排水基準を遵守しています。
アニマルウェルフェア向上では「アニマルウェルフェアに配慮した家畜の飼養管理指針」に基づき、動物の快適性に配慮した飼養環境の整備を推進しています。放牧面積の拡大（約28.5万ヘクタール）、平飼い・放し飼い鶏舎の普及（採卵鶏の18.7%）等により家畜のストレス軽減を図っています。
持続可能な畜産業実現に向けて「みどりの食料システム戦略」では、化学肥料削減30%、温室効果ガス削減50%、有機農業面積拡大25%の目標を設定し、畜産業においても環境負荷軽減と生産性向上の両立を目指しています。
国際認証取得では持続可能な畜産物生産の証明として、JAS有機認証取得農場が約1,240戸、GAP認証取得農場が約3,850戸に達し、輸出促進と消費者信頼向上に貢献しています。
記事は、畜産環境対策が地域環境保全と畜産業の持続可能な発展に不可欠であり、技術革新と制度整備を通じて環境負荷軽減と経営改善を同時に実現することが重要であると結論づけています。