経済産業省が2025年7月24日に開催した「第1回産業構造審議会イノベーション・環境分科会排出量取引制度小委員会製造業ベンチマーク検討ワーキンググループ」について、製造業における排出量取引制度のベンチマーク設定に関する検討内容を報告したものです。
本ワーキンググループでは、排出量取引制度の導入に向けて、製造業各業種における温室効果ガス排出量のベンチマーク（基準値）設定について議論が行われました。対象となった主要業種は、石油精製、ナフサクラッカー・有機化学品、紙・板紙の3分野です。
石油精製部門については、石油連盟から業界の現状と課題について説明がありました。石油精製プロセスにおける温室効果ガス排出の特性を踏まえ、エネルギー効率や製品構成の違いを考慮したベンチマークの設定方法が検討されました。燃料供給基盤整備課からは、石油精製ベンチマークの具体的な案が提示され、製油所の規模や複雑度、エネルギー効率などを総合的に評価する指標の必要性が示されました。
ナフサクラッカー及び有機化学品部門では、石油化学工業協会が業界の状況を説明しました。石油化学製品の多様性と製造プロセスの複雑性を考慮し、適切なベンチマーク設定の重要性が強調されました。素材産業課からは、ナフサクラッカーの運転効率や製品収率、エネルギー原単位などを基準とするベンチマーク案が提案されました。有機化学品については、製品カテゴリー別にベンチマークを設定する方針が示されています。
紙・板紙部門については、日本製紙連合会から業界の取り組みと課題が報告されました。紙・板紙製造業は、原料や製品の種類により製造プロセスが大きく異なるため、製品カテゴリー別のベンチマーク設定が必要とされました。素材産業課からは、新聞用紙、印刷・情報用紙、包装用紙、衛生用紙、板紙など、製品種別ごとにエネルギー消費量や温室効果ガス排出量の基準値を設定する案が提示されました。
各業界団体からは、国際競争力への配慮、技術的実現可能性、設備投資への影響などについて懸念が示されました。特に、エネルギー多消費型産業である製造業においては、過度に厳しいベンチマークは企業の存続に関わる問題となるため、段階的な導入と柔軟な運用が求められています。また、省エネルギー技術の導入促進や、再生可能エネルギーの活用についても議論されました。
今後の検討課題として、ベンチマークの定期的な見直しメカニズム、中小企業への配慮、国際的な制度との整合性確保、技術開発インセンティブの維持などが挙げられました。また、排出量取引制度全体の中でのベンチマークの位置づけや、他の気候変動対策との連携についても継続的に検討していく必要があることが確認されました。
記事は、製造業における排出量取引制度のベンチマーク設定は、各業種の特性を十分に考慮しつつ、脱炭素社会の実現と産業競争力の維持を両立させる必要があり、産官学の連携による継続的な検討が重要であると結論づけています。