農林水産省畜産局が所管する「畜産企画・方針」は、我が国畜産業の持続可能な発展に向けた基本政策と戦略的方針を定めたものです。
現在の畜産業の位置づけでは、農業総産出額8.8兆円のうち畜産業が3.4兆円（38.6%）を占め、農業の基幹産業として重要な役割を果たしています。特に酪農は約6,800億円、肉用牛が約5,200億円、養豚が約5,100億円、養鶏（鶏卵・ブロイラー）が約6,800億円の産出額を有しています。
基本政策では「畜産クラスター事業」を通じて地域ぐるみでの収益性向上を図っており、2014年度から2023年度までの10年間で累計約2,850億円を投入しています。同事業により参加農家の収益性は平均18.3%向上し、労働時間は12.7%削減される効果を上げています。対象農家数は約1万2,400戸で、全畜産農家の約25.8%をカバーしています。
構造改革の推進では大規模・効率的な経営体の育成を重点的に進めており、1経営体当たりの飼養頭数は酪農で平均92.6頭（10年前比1.4倍）、肉用牛繁殖で平均26.8頭（同1.6倍）、養豚で平均2,456頭（同1.3倍）まで規模拡大が進んでいます。
技術革新の推進では「畜産DX」により生産性向上と労働負担軽減を図っており、ICTを活用した発情発見システムの導入率が乳用牛で31.2%、搾乳ロボットの導入率が8.7%に達しています。また、IoTを活用した飼養管理システムの導入により、乳量は平均5.2%増加し、疾病発生率は18.4%低下する成果を上げています。
環境対策では2050年カーボンニュートラル実現に向けて、メタン削減技術の開発・普及に取り組んでおり、メタン抑制飼料添加物の実用化により牛からのメタン排出量を15-20%削減する技術が確立されています。また、家畜排せつ物の適正処理と有効活用により、年間約8,200万トンの堆肥を生産し、耕種農業との連携強化を図っています。
国際競争力強化では「畜産物輸出促進事業」により輸出額を2022年の478億円から2030年に1,300億円まで拡大する目標を設定しています。和牛肉の輸出は2023年に過去最高の258億円を記録し、主要輸出先は香港（29.3%）、米国（28.7%）、台湾（12.1%）となっています。
人材確保・育成では「畜産経営体質強化対策事業」により新規就農者への支援を実施し、年間約850人の新規参入を実現しています。また、外国人技能実習制度により約2.1万人、特定技能制度により約4,500人の外国人労働者が畜産業に従事しており、労働力不足の緩和に寄与しています。
防疫体制では家畜伝染病予防法に基づく厳格な衛生管理を実施し、特に豚熱（CSF）対策では野生イノシシのワクチン接種を含む総合的な防疫措置により、発生農場数を2019年の66農場から2023年の8農場まで大幅に削減しています。また、高病原性鳥インフルエンザ対策では早期発見・迅速な殺処分により被害の最小化を図っています。
自給率向上では畜産物の自給率目標を牛乳・乳製品73%（現状61%）、牛肉36%（現状35%）、豚肉50%（現状49%）、鶏肉66%（現状64%）、鶏卵97%（現状96%）に設定し、国産飼料基盤の強化と併せて食料自給力の向上を目指しています。
記事は、畜産業が食料安全保障、地域経済、環境保全において重要な役割を担い、技術革新と構造改革を通じて持続可能な産業発展を実現することが国家戦略上不可欠であると結論づけています。