農林水産省の「畜産振興・飼料政策」は、我が国畜産業の持続可能な発展に向けた飼料供給体制の強化と畜産振興策を詳述したものです。
飼料の現状では、年間総需要量約2,456万トンのうち、濃厚飼料が約1,789万トン(72.8%)、粗飼料が約667万トン(27.2%)を占めています。濃厚飼料の自給率は約12%にとどまり、約88%を輸入に依存している状況です。主要輸入先はアメリカ(40.2%)、ブラジル(18.7%)、アルゼンチン(12.4%)、ウクライナ(8.9%)となっており、地政学的リスクへの対応が重要課題となっています。
配合飼料の生産では全国164工場で年間約2,380万トンを製造し、うち畜種別では豚用が約976万トン(41.0%)、鶏用が約854万トン(35.9%)、牛用が約550万トン(23.1%)となっています。配合飼料価格は2022年以降の原料高により、2024年の畜産農家購入価格は豚用でトン当たり約67,800円(前年比8.2%上昇)、採卵鶏用で約71,200円(同9.1%上昇)と高水準で推移しています。
飼料価格安定制度では「配合飼料価格安定制度」により、飼料メーカー、畜産農家、国が1:1:1で積み立てた基金から価格高騰時に補填金を交付しています。2023年度は過去最高の約458億円を補填し、畜産経営の安定に大きく貢献しました。また、粗飼料については「粗飼料増産対策事業」により年間約28億円の支援を実施しています。
国産飼料基盤の強化では、飼料作物作付面積が約91.2万ヘクタール(うち牧草約72.8万ヘクタール、青刈りとうもろこし約18.4万ヘクタール)で、粗飼料自給率は約76%を維持しています。耕作放棄地を活用した飼料生産では約4.8万ヘクタールで取り組みが進み、地域資源の有効活用が図られています。
エコフィード(食品循環資源飼料化)の推進では、年間約321万トンの食品循環資源を飼料化し、濃厚飼料の約18%に相当する代替効果を上げています。主な原料は食品製造副産物(68.2%)、売れ残り食品(19.4%)、調理残さ(12.4%)で、飼料費削減効果は年間約420億円と試算されています。
草地・飼料畑の生産性向上では「草地整備・飼料増産対策」により、年間約2.1万ヘクタールの草地改良を実施し、単位面積当たり収量を平均23.4%向上させています。また、飼料用とうもろこしの優良品種普及により、収量は10年前から平均18.7%向上し、反収は10a当たり約4.2トンに達しています。
飼料の安全性確保では「飼料安全法」に基づく厳格な管理を実施し、年間約5,400件の検査により残留農薬、カビ毒、重金属等の安全性を確認しています。また、BSE対策として肉骨粉等の使用禁止措置を継続し、安全な飼料供給体制を維持しています。
新技術の導入では「スマート畜産業」の推進により、精密給餌システム、自動草刈り機、ドローンによる草地管理等の省力化技術を導入し、労働時間を平均16.8%削減する効果を上げています。また、AIを活用した飼料設計最適化システムにより、飼料費を平均4.2%削減しています。
持続可能性の向上では、温室効果ガス削減に向けてメタン抑制飼料添加物の開発・実証を進め、乳用牛で約13.5%、肉用牛で約11.2%のメタン削減効果を確認しています。また、窒素排出削減のための低タンパク質飼料の普及により、豚では窒素排出量を約18.4%削減しています。
国際協力では「海外飼料生産拠点確保対策」により、南米、東南アジア等での日本向け飼料生産拠点の確保を支援し、安定的な調達体制の構築を図っています。また、飼料穀物の国際相場安定化に向けて、G20等の国際会議で協議を行っています。
地域循環型畜産の推進では、地域内での飼料生産と家畜排せつ物の堆肥利用により、年間約1,240万トンの堆肥を生産し、化学肥料の削減効果は窒素成分で約12.8万トン(化学肥料全使用量の約28.4%)に相当します。
記事は、飼料政策が畜産業の競争力強化と持続可能な発展の基盤であり、国産飼料基盤の強化、価格安定制度の充実、環境負荷軽減技術の導入を通じて、安全・安心で持続可能な畜産業の実現を目指すことが重要であると結論づけています。