【長野発】めっき業界の「駆け込み寺」、開発力と解析力で化学の新フィールドへ 長野県伊那市 サン工業株式会社
概要
長野県伊那市のサン工業は、従来の「下請け」的なめっき加工業から脱却し、製品開発段階から参画する「パートナー企業」として成長を遂げている。同社は30の製造ラインのうち3分の2を取引先専用ラインとし、22種類のめっき処理に対応。約600社との取引実績を持ち、自動車、航空宇宙、産業機械、医療、電気・電子、家庭用品など幅広い業界に及んでいる。川上健夫社長(74)の「いい会社」づくりの理念のもと、全社員の8割が「めっき技能士」の資格を取得し、業界の「駆け込み寺」として高い評価を得ている。
企業変革の背景と人材育成
川上社長が24歳で専務として入社した当時、めっき工場は「きつい、汚い、危険、暗い、くさい」の5Kと呼ばれる労働環境で、社員の離職が相次いでいた。「下請け」として軽んじられる風潮もあり、営業先で「あぁ、めっき屋か」と見下されることもあった。この状況を変えるため、川上社長は「いい会社」の実現を目指し、明るくきれいな工場への移転を決意。当時の年商の2.5倍の資金を借り入れ、中央道伊那インター近くの工業団地に新工場を建設した。1985年頃から月1回の勉強会を開始し、2000年からは「SUNDay」(Step Up Noの Day)という全社員参加型の勉強会に発展させ、2025年中に300回目を迎える。
技術革新と分析・解析力
同社の強みは高度な分析・解析力にある。「表面解析室」に最新鋭の評価機器を備え、他社のめっき不良の原因究明を手がけている。ミクロンの世界で熟練の職人技とされるめっき業界では不良の原因特定が困難だが、同社は科学的なアプローチで問題を解決している。例えば、切削加工メーカーから依頼された自動車部品のめっき不良では、材料が原因とされていたが、実際にはめっき処理液の管理に問題があることを突き止めた。
新技術開発と将来展望
同社は「超高硬度クロムめっき」(従来の硬質クロムめっきの1.7倍の硬度)や「抗ウイルス・抗菌めっき」(SIAA認証取得)などの独自技術を開発している。超高硬度クロムめっきは熱を加えることでさらに硬化し、耐摩耗性も向上する特性を持ち、医療・産業用ロボットの関節部分や釣り竿のガイドなどへの活用が期待される。2024年10月には「地域未来牽引企業」の新事業創出プロジェクト「みらいPitch」に参加し、複数企業と製品開発を進めている。キャッチフレーズ「Yes, I can!」のもと、顧客ニーズではなく自社技術による「シーズ開発」で新市場開拓を進めている。川上社長は「めっきは化学であり、薬品も自社開発できる。化学の新たなフィールドに進んでいきたい」と語り、製造業のサポートインダストリーとして日本の製造業発展への貢献を目指している。