民営企業支援を加速、座談会を経て民間経済促進法も施行（中国）：地域・分析レポート

1. 民営企業座談会の開催背景と意義

2025年2月17日、習近平国家主席らが出席し、2018年11月以来となる民営企業座談会が開催されました。貿易摩擦の激化や世界経済の不確実性が高まる中、中国経済の先行きが不透明さを増していることを受け、中国共産党および政府は民営企業の支援強化に乗り出しています。31人の民営企業家が招かれ、民間経済の発展に向けて議論が交わされ、中国共産党序列上位4人が参加するなど、政府の強い意志を示すものとなりました。

2. 座談会参加企業の特徴と発言者

座談会には総勢31人の民営企業家が招かれ、そのうち6人に発言の機会が与えられました。華為技術（ファーウェイ）の任正非CEO、比亜迪（BYD）の王伝福董事長など、ICT、新エネルギー車、ロボットなどの分野の著名な民営企業家が含まれています。第一列にはアリババ集団創業者の馬雲氏、テンセントの馬化騰董事会主席兼CEO、CATL曾毓群董事長などが座り、ハイテク企業の存在感が大きく示されました。

3. 習近平国家主席の重要講話内容

習国家主席は民間経済の発展に向けた中国共産党と国家の基本方針・政策について変えることはできず、今後も変わらないと強調しました。党と国家は各種所有制経済に対して、法に基づく生産要素の平等な利用、市場競争への公平な参画、法律による平等な保護を受ける権利を保障すべきとし、各種所有制経済の相互補完を促しつつ、非公有制経済（民間経済）の健全な発展を促進していくと明言しました。

4. 民営企業の現状と課題認識

習国家主席は、民間経済発展が直面している課題や困難は部分的で一時的なもので、全体的で長期的なものではないとし、克服可能と強調しました。具体的には、法に基づく生産要素の平等な利用や公平な競争への参画を妨げる各種障害を取り除き、民営企業の資金調達難・調達コスト高、未払金の問題解決、不当な費用徴収や過剰な罰金の是正などに取り組むとしました。

5. 民営企業の経済的地位と投資動向

2025年1月末までで、中国の民営企業数は5,670万7,000社に達し、企業数の9割以上を占めています。税収の5割以上、GDPの6割以上、技術イノベーション新成果の7割以上、都市部就業の8割以上を占める中核的存在となっています。しかし、2024年の民間固定資産投資は0.1％減と前年に続きマイナス成長となり、固定資産投資全体に占める民間投資の構成比も2015年の56.2％から2024年には50.1％に低下しています。

6. 対外環境と規制強化の影響

2024年11月の米国大統領選挙でドナルド・トランプ氏が勝利し、追加関税など保護主義的な政策を展開する中、輸出額の6割以上を占める民営企業への影響が懸念されています。また、2020年12月以降の反独占と資本の無秩序な拡張防止強化により、アリババ集団への182億元の罰金、アントグループのIPO延期など、プラットフォーム企業に対する規制強化が続き、民営企業のマインド低下や発展の不透明性が指摘されていました。

7. 民間経済促進法の制定と構成

2025年4月30日、民間経済促進法が第14期全国人民代表大会常務委員会第15回会議で可決され、5月20日から施行されています。民営経済発展に関する中国初の基本的な法律で、全9章・78条で構成されています。「平等」「公平」「同等」の表現が26カ所使われており、平等原則が民営経済発展任務の全プロセス、各分野で一貫していることが強調されています。

8. 民間経済促進法の主要内容

同法は公平な競争環境の実現、投融資の促進、科学技術イノベーション、経営の規範化、サービスの保障、権益の保護など包括的な支援策を規定しています。特に、市場参入ネガティブリスト制度の実施、金融機関による平等な取り扱い、国家の重要戦略・重要プロジェクトへの参画支援、株式・債券発行による直接資金調達支援などが明記され、民営企業の活動環境整備に向けた法的裏付けが整備されました。

9. 金融支援政策と地方政府の対応

民間経済促進法可決後、人民銀行は農業関連、小規模零細企業支援の再貸し出しを3,000億元増やし、再貸出金利の引き下げ政策と相乗効果を生み出すとしました。また、法律可決から約1カ月の間に、北京市、陝西省、江西省、浙江省、河南省、新疆ウイグル自治区の少なくとも6省において、民営経済加速に向けた政策文書が発表され、地方レベルでの具体的な取り組みが始まっています。

10. 今後の展望と課題

河南省では「中国民営企業500強」にランクインする企業数を同省経済規模に見合うものにすることや、「製造業単一項目チャンピオン企業」のうち民営企業の構成比を8割超にするという具体的な目標を設定しています。民営企業座談会を経て、民営経済発展に関する初の基本的な法律が整備されましたが、今後は広大な中国において、地方政府が着実に運用し、どのような支援の取り組みを行っていくかに注目が集まります。実際の運用段階での効果的な政策実施が、民営企業の発展と中国経済の安定成長の鍵となります。