日本銀行が2025年6月に実施した全国企業短期経済観測調査(日銀短観)について、企業の景況感と今後の経営計画を包括的に分析したものです。
主要なポイント
1. 業況判断DIの動向と業種間格差
- 大企業製造業のDIは12で横ばい、原材料高の影響が残る中で景況感は足踏み状態
- 大企業非製造業は35(前回比+7)と大幅改善、インバウンド需要回復や個人消費持ち直しが寄与
- 中小企業は製造業2(+3)、非製造業16(+7)といずれも改善傾向
- 先行き(9月時点)は全産業で15から9へと低下を予想、不確実性への警戒感が強まる
2. 設備投資計画の積極姿勢
- 2025年度の設備投資計画は全産業で前年度比6.7%増と高水準を維持
- 製造業は12.4%増と二桁の伸び、DX投資や脱炭素関連投資が牽引
- 非製造業も3.6%増、人手不足対応の省力化投資やサービス向上のためのIT投資が活発
- 中小企業も設備投資に前向き、老朽化設備の更新需要も根強い
3. 売上高・収益見通しの乖離
- 2025年度売上高は全産業で1.4%増と緩やかな増収を計画
- 一方、経常利益は5.7%減と減益予想、原材料費・人件費上昇によるコスト圧力が影響
- 価格転嫁の進展度合いが企業収益の分岐点、特に中小企業で課題
- 為替レート想定は148.44円/ドル(2024年度)、円安基調を前提とした計画策定
4. 資金繰り・金融環境の安定性
- 資金繰りDIは全規模で11(前回比+1)と改善、企業の資金繰りは総じて良好
- 金融機関の貸出態度DIは14で横ばい、緩和的な金融環境が継続
- CP・社債発行環境も良好、大企業を中心に多様な資金調達手段を確保
- 金利上昇リスクへの警戒感は存在するも、現時点では資金調達に大きな支障なし
5. 構造的課題と物価動向
- 雇用人員判断DIは-35と深刻な人手不足が継続、全業種・全規模で不足感
- 企業の物価見通しは1年後2.9%、5年後5.1%と中長期的なインフレ期待が定着
- 賃上げ圧力と生産性向上の両立が経営課題、DX推進による業務効率化が急務
- サプライチェーンの強靱化、経済安全保障への対応も投資判断の重要要素に
記事は、企業の景況感は総じて改善傾向にあるものの、コスト上昇圧力や人手不足などの構造的課題への対応が企業経営の持続可能性を左右すると分析しています。